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「債権各論I上-契約総論」/平井宜雄



出たときに、「はしがき」の内容に驚いたのだが、何故か買わなかった。今回は、正月明けに神保町の古本屋で見かけてつい買ってしまった。
(読み終わってから、エントリをまとめるのに何故か時間がかかってしまった)

「はしがき」の頭から「なによりもまず読者にお断りすべきなのは、本書の内容が基本的にはほぼ10年前に執筆されたままである、という点である。」と来る。そんな内容で何故出すのかと三時間くらい問い詰めたくなったのだが、その後を読むと、要するに死ぬかもしれないから、その前に出せる分だけ出すということらしい。どこまでネタなのか本気なのか、とわかったものではないが…。
「はしがき」でもう一つ印象的だったのは、次のくだり。長いけど引用。

私は長年にわたって大学で民法の講義を担当してきたが、とくに契約法の講義を担当したとき、私の頭にいつも去来したのは、取引界における現実を知らないままに、それと大きく遊離した内容を学生に伝えているのではないか、という不安感であった。第一線の契約実務家(いわゆる企業法務部に属する方々)の多くから、「契約法の体系書など参考にならないから読んだこともない」と言われたことも、この不安感を増幅させた。というのは、取引ではその目的に応じて各種の法律的手段が組み合わされて用いられるのが常であり、契約法の講義の中心である典型契約に関する規定は、それら無限の形態を生み出している取引のごく一部を扱うものに過ぎず、それを講義しても意味が少ないのではないか、という思いに、いつもとらわれていたからであり、実務家の発言はそれを裏書きしているように感じられたからである。さりとて、典型契約の規定の解説に重きを置く代りに、判例中心の講義をしてみても、主として経済的価値の取得を目的とする紛争は、たとえば不法行為法上の紛争と異なり、取引主体の経済的考慮(いわゆる費用便益の計算)に従って処理されることが多いであろうから、訴訟に現れることなく解決されるのが一般であり、したがって判例に現れた事案は、取引書いの中心的問題点を示すものでなく、周辺的かつ特異なものではないか、取引の中心的問題点が何かを判例から得るのは不可能ではないのか、という、また別の不安感が沸き起こってくる。



こういうことを素直に吐露するのも珍しいと思うし、こういう問題意識を、「象牙の塔」にいる(はずの…最近は外との接触も結構あるのかもしれませんが)学者の方が持っていることは、良いことなのではないかと思う。ここで僕がいうことではないが、契約に関する交渉のうえでは、訴訟になったらこの契約上の文言について裁判所がどう解釈するだろうか、と考えるのが基本だと思われるし、契約法に関する判例を分析することには意味がないとは思わない。

内容の面では、契約法の再定義として行われている試み、すなわち、「特定人間の権利義務の設計を任務とする契約法」が、とても興味深い。実際に契約書のドラフト(またはそのレビュー)で行っているのは当事者間の権利義務の設計であって、その意味で、アカデミックな契約法理論を、実務に近づけるための試みと理解することができるからだ。したがって、企業法務で契約法務を経験していると、「市場型契約」「組織型契約」の区分や、継続的取引契約と、それ以外のone-shotの契約との差異に応じた区分、は、非常に理解しやすいのではないかと思う。また、権利義務の設計の手掛かりとして、今まで重視されてこなかった典型契約の位置づけしなおしている点も、興味深かった。

債権法の改正との関係では、平井教授の視点は、現行の内田参与(過去にこのお二方の間で論争もあったし…)をはじめとする案を批判する際にも有意義ではないかと思う。上記の視点から見ると、現状の取引実態およびその今後の進展に鑑みて、如何なる典型契約を民法典に定めておくべきか、という問題意識に繋がるのではないかと思う。その問題意識からすれば、何故ファイナンス・リースだけを典型契約に加えるのか、という疑問や、それぞれの典型契約の規定についても、権利義務の設計の手掛かりとして十分に機能する内容になっているのかどうか、という視点からの再検討も可能になるのではないかと思う。

そんなこんなで、実務経験のない学生さんよりは、企業法務で契約法務の経験がある方のほうが、著者との対話(ツッコミかもしれないけど)をしながら、この本を味読(blogを拝読しているいとう先生の表現を借りれば、「噛み締めながら読む」というところか)できるのではないかと思う。

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