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「足利事件 松本サリン事件」/菅家利和・河野義行



足利事件の菅家利和さん、松本サリン事件の河野義行さんという、冤罪事件の被害者お二人の対談。冤罪を生む仕組みとそれを支える?構造について語り下ろし(?)ている。対談中で出てくる他の事件や訴訟の仕組みなどについての解説も丁寧。それほどボリュームがあるわけではないから、読むのはすぐに読めてしまう。

もともと、足利事件については何か本を読んでみたいと思っていたのだが、それを別にしても、企業法務の方々も、読んでおいて損はないのではないかと、読み終わって思った。その理由としては、一市民として、自分個人がいつ「被害者」側に回るかも分からない、ということが一つ。この点については、次のような発言があった。

河野 身に覚えのない罪で犯人扱いされ、しまいには逮捕、起訴され、有罪にまでなってしまう。これは誰にでも起こりうることですよ。


もう一つは、企業で刑事事件に巻き込まれるケースもありうるし、そういう事件において、担当者がいつ何時虚偽の「自白」をするかも分からないから、そういうことがどうして起こるのか、理解しておいて損はないと思ったことがある。
対談が実施されたのが菅家さんが刑務所から出て一月程しかたっていないという時期のため、末尾で佐藤博史弁護士が指摘しているように、冤罪を生み出す/それを支える構造についての話になると、どうしても菅家さんが聞き役になりがち。一方、河野さんは、幸運にも逮捕・起訴・有罪判決を受ける、などはしていないため、実際にそういうステップを踏むとどうなるか、というあたりに付いては、菅家さんの話が迫力を持ってくる。

印象に残った言葉を、一部コメント等も交えつつ、いくつか引用。

菅家 最後は、もういいやっていうくらい追い込まれちゃうんですよ。やってないのに何で「やった」なんて言うのかと皆さん言いますが、もう疲れましてね。ポロって言うとかそういうことじゃなくて、どんどんどんどん追い込まれて行くんです。蹴飛ばされたり、「馬鹿面してるな」と言われたり、本当にもう無茶苦茶ですね。
「やったんだろう」と繰り返し、繰り返し言われていると、これが不思議なものでなんだか「やったかな?」という気になるんです。「あれ?俺、本当にやっちゃったのかな?」と思いましたよ。


河野 何ていうか、取調官の気に入られるにはどう言えばいいかっていうふうになっちゃうみたいですね。
菅家 なっちゃうんですね。そう考えちゃうんですよ。


この点については、佐藤優氏が、「ぼくらの頭脳の鍛え方」で、同種のことを、より詳しく述べている。

結局、取調室という隔絶された環境の中で、優等生になっちゃうんです。相手の言うことに迎合したくなる、という心理が人間の中にあるんです。私も検事の取り調べを受けているうちに、その検事の人間性がいいことや、ほかの検事と競争していることがわかると、助けてやりたくなるんです。

人間というのは、環境に順応する力がすごく高いんです。ポイントは途中で保釈されていないこと、保釈されると、娑婆に戻って、ほかの人と話をすることで現実を取り戻す。しかし、一切保釈無なしで、面会も認められず、取調官と裁判所のあの閉鎖空間の中に入ってしまうと、やっぱり独自の世界観ができて、迎合してしまう。



菅家 裁判ではなかなか「やっていない」というのは言えなかったんですね。
 ひとつは、取調べた刑事への恐怖があったんです。傍聴席に刑事がいるんじゃないかと、ずっと心配でした、もし、「やってません」というと出てきて、「なんだお前は、あの時、認めておいて」とか言われるんじゃないかとずっと思っていましたから。気が弱かったせいもありますけど、本当に刑事は怖いなぁと思っていましたから。

こうなってくると、自白させた者勝ち、みたいな話になってきかねない。自白のみを唯一の証拠とはできないとしても、「自白」と何かがあればOKはやっぱり怖いと実感する。

河野 私のときも、自白を引き出そうとして、かなり嘘の誘導をしてきました。息子がこんなことを認めたとか、こういう証拠が出たとか、あとから確認するとまったくのデタラメなんですよ。
 当時、自分の中では「このままいくと逮捕されるかもしれない」という考えがありました。そうすると、戦う場所は法廷しかないわけですよ。それで、法廷でどうやって戦うかを頭の中で描いていました。
 それで、任意取調べのときメモを取るようにしたのです。すると、「1対1の話だろう、何でそんなものを取るんだ:と言ってくるのです。「メモ取ってはいけないという法律があるなら取りませんけど、どうなんですか?」と聞いたら「ない」っていうから、「なきゃ取ります」ということで、事情聴取で警察官が何を聞いて、私がどういうふうにこたえたか、全部メモしました。
 そりゃ、向こうは嫌がっていましたよ。嫌がりましたけどこっちは別に悪いことをしているわけではないし、自分の身を守るのですから全部メモして、時間も記録しました。さらに、押収されちゃいけないから、後から弁護士にあずけたりしました。

この本の中で、一番すごいと思ったのはこの箇所。普通はそこまでやり通せないのではないか。

河野 とにかく警察は身柄を確保したがるんですね。別件でもなんでもいいから逮捕して、取り調べて、自白に持ち込むんです。



河野 警察というのは、捜査員が細切れ情報を持ち寄って、トップがそれを全部見て捜査方針を立てて、この筋ならいけると判断して逮捕、送検するわけです。メンツもかかっていますから、一度立てた捜査方針はそうそう変えられない。もし、その捜査方針が間違っていたら、どんどん変な方向に行ってしまいます。


河野 自分たち(dtk注:検察)は、この人物がこれこれの犯罪を犯したと思う。具体的には、いつ、どこで、どのようにして犯行に及んだか。その証拠として、こういう証言や物証があると主張するんです。被疑者の側は、それに対して反論したりする。その両方を聞いて、最終的に判断するのは裁判官なんですよ。裁判官の判断で有罪にもなれば無罪にもなるんです。冤罪を法的につくっているのは裁判所、とりわけ最高裁だと私は思います。

河野 警察、検察が間違ったとしても、最後に踏みとどまるべきは裁判所なんですよ。刑事事件においては、警察や検察はあくまで犯罪の捜査・立証を行う側であって、弁護側と同じように裁判における一方の当事者なのです。主張と証拠物をお互いに出して、それに対して裁判官が自由心証主義で判断する、という建前になっています。
 しかし、職業裁判官というのは、実際にはなかなか自由心証による判断ができないのではないか。どういうことかというと、裁判所は憲法上、三権分立で立法(国会)や行政(政府)と対等の立場でお互いに牽制しあうことで、国家権力の乱用を防ぐということになっていますが、実際のところ予算は法務省が握っているわけだし、高裁や最高裁の判事は政府の同意や指名が必要ですから、どうしてもそういう方面の顔色を窺う人も出てくるのででしょう。

河野 私、前から言っているけれども、唯一の希望っていうのが裁判員の自由心証なんです。職業裁判官のようなしがらみがない分、バランスのとれた判断ができるのではないかと期待してるんですよね。

冤罪に対する最後の砦が裁判所というのは、言われてみるとそうなのだが、つい、検察の誤謬の方に頭が行っていたので、目から鱗、ではないが、読んでいて、なるほどと思った。その比較での裁判員制度への見方にもなるほど、と思ったのだった。

菅家 裁判の時、こちらが取調べで殴られたり髪をつかまれたり大声で怒鳴られたりしたと言っても、彼らは「やっていない」って言うんですから。ずるいですよね。
 だから本当に全面的に可視化、やってもらって。そうすれば多少は減るんじゃないかと自分は思っています。今までのやり方じゃやっぱり、また絶対に冤罪は生まれますね。本当ですよ、これは。
河野 私は、冤罪っていうのはね、警察がどういうことをやろうが、検察がどういうことをやろうが、裁判所が食い止めるもんだと思っているんですよね。
 例えば、菅家さんがやったっていうことを検察が本当に立証しているかどうか。「疑わしきは被告の有利に」が刑事裁判の原則であって、「推認されるから有罪」というのは本当は許されないことです。推認というのは、まだ立証されていないってことですよ。

最後の一文については、疑問の余地があるのかもしれないが、ここはスタンスの違いが面白かった。どちらも可視化がすべてを解決するとは考えていないように見受けられるのが興味深い(個人的には、それでもなお、必要だと言う気がするが)。

...他にも気になった箇所はあったが、この辺にしておく。冤罪には巻き込まれたくはないが、巻き込まれる可能性を考慮したうえで、危機管理の類は考えるべきなんだろうな、と思ったのだった。

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